強制執行までの流れ
強制執行とは
強制執行とは、離婚の際に取り決めた慰謝料や養育費等が支払われない場合、強制的に相手方の財産を差し押さえ、支払いを実行させる制度です。
養育費の未払いによる給料の差し押えについては、給料手取額(税金等を控除した残額)の2分の1までが差し押えの対象になります。「残額の2分の1」が33万円を超えるときは、33万円が差し押え禁止となりますので、その余り部分が差し押え可能です。賞与も同様です。退職金(税金等を控除した残額)も2分の1まで差し押え可能です。
給料手取額(税金等を控除した残額)が80万円の場合
80万円―33万円(差し押え禁止)=47万円(余り部分が差し押え可能)>2分の1である40万円より多い。つまり、相手方の給料手取額が66万円あるか否かが分岐点です。
養育費の未払いが100万円で、給料手取額(税金等を控除した残額)が30万円の場合は、1か月に差し押さえができる金額は15万円となり、100万円になるまで、毎月、相手方(債務者)に給料を支払っている会社等(この会社等を「第三債務者」といいます。)から債権者(あなた)に支払われることになります。また、養育費の場合は、未払い分だけに限らず、将来、支払ってもらえる分についても差し押さえができます。
慰謝料や財産分与、借家賃料等については、4分の1まで差し押え可能です。裁判所による差押命令が出ると、受け取った会社は、相手方に支払う給料の中からあなたに支払う分を残しておき、その後、あなたが会社と連絡して受領します。相手方が転職した場合、勤務先が判明すれば、再度、債権差し押さえの申し立てをすることも可能です。
強制執行をするには債務名義が必要
強制執行をするためには、確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書、調停調書、公正証書等の「債務名義」が必要です。つまり、夫婦間で慰謝料や養育費等の支払いについて、約束していても口頭や文書にしているだけでは強制執行をすることはできないということです。このような場合は、家庭裁判所に慰謝料や養育費等の支払いを求める調停等の申し立てをしなければなりません。
強制執行手続き
離婚給付契約公正証書を作成した後、万一、債務者が金銭の支払いを怠った場合、裁判所の判決を経ないで直ちに強制執行手続きに入れます。次の流れは、給与の差押に関する強制執行手続きで、一般に多いとされる債権者(元妻)、債務者(元夫)の例です。
- 公証役場での手続き
債務名義の正本
離婚給付契約公正証書(正本)を作成した公証役場に持参します。
執行文の付与
強制執行をするには、債務名義に執行文が付与されていなければなりません。執行文の付与とは、債務名義に「強制執行をしてもよろしい」という文書をつけてもらうことをいいます。
離婚給付契約公正証書の場合は、作成した公証役場の公証人に執行文を付与してもらいます。
債務名義の正本+執行文の付与=執行正本
債務名義の送達
強制執行を開始するにあたっては、債務者に債務名義が送達されていることが必要です。強制執行は、不意打ちを許す訳ではなく、債務者にどのような内容の強制執行がなされるのかを知らせ、その強制執行に違法な点があった場合等に備え、対策の機会を与えるために債務名義の送達が行われます。また、債務者が任意に債務を履行する最後の機会を与える意味もあります。
離婚給付契約公正証書の場合は、作成した公証役場の公証人に離婚給付契約公正証書(謄本)の送達申請をします。
送達証明書
さらに、送達したことを証明するため、送達証明書交付申請をし、「送達証明書」を受け取ります。
- 地方裁判所での手続き
債権差押命令申立
原則、債務者(元夫)の住所地を管轄する地方裁判所に出向きます。(当事者の合意によって、事前に管轄する裁判所を決めておくこともできます。)
<必要書類>
- 債権差押命令申立書
- 執行正本(執行文が付与された公正証書正本)
- 送達証明書
- 請求債権目録
- 差押債権目録
- 当事者目録
- 元夫の勤務先の登記事項証明書
- 債権者(元妻)の戸籍謄本及び住民票
- 第三債務者(元夫の勤務先)に対する陳述催告申立書
- 収入印紙
- 予納郵券代
その他、必要書類については、申立をする地方裁判所にお問い合わせください。
差押命令
裁判所は、債権差押命令申立書に理由があると認めるときは、差押命令を発し、まず第三債務者(元夫の勤務先)に差押命令を送達し、その後に債務者(元夫)、債権者(元妻)に送達します。
取立て
債権差押命令が債務者(元夫)に送達された日から1週間を経過すると、債権者(元妻)に給与債権を取り立てる権利が発生します。債権者(元妻)は、第三債務者(元夫の勤務先)と直接交渉して、差押さえた給与債権を自分の口座等に支払ってもらうことができます。
注意すべきは、裁判所が差押さえた給与を自動的に元妻に支払ってくれる訳ではなく、あくまで元夫の勤務先と元妻が直接話し合わなければならないということです。
取立届
債権者(元妻)は、債権の全額の支払いを受けたときは、裁判所に取立書を提出する必要があります。
当行政書士事務所は、本ホームページによる情報提供のほかは、裁判所に関する書類作成及び相談業務は一切行っておりません。