告訴状の基礎知識

告訴とは

告訴とは、被害者その他の告訴権者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、その犯人の処罰を求める意思表示を言います。したがって、被害届、盗難届、上申書等の被害事実の申告のみ(処罰を求める意思表示が含まれていない)では告訴とは言いません。告訴は、原則としてその事件を管轄する警察署または検察庁に出向き、司法警察員または検察官に対して、口頭または書面で行います。

告訴状を作成し提出しても書式や内容に不備があったり、素人目には犯罪が成立すると思っても、専門家の目からすると犯罪にならなかったり、証拠が不十分なため不受理や立件できない場合もあります。告訴人が告訴権を有しており、犯罪事実の特定等、告訴要件を具備している場合は、司法警察員は管轄区域内外を問わず受理しなければならないとされていますが、以下の場合は不受理とされます。

検察官は、告訴事件につき、起訴、不起訴、公訴の取り消し、または移送の処分をしたときは、速やかに告訴人にその旨を通知しなければならないとされています。なお、不起訴処分について不服がある場合は、検察審査会に処分の当否の審査を申し立てることができます。

告訴権者とは

親告罪とは

過失傷害罪、名誉毀損罪等は、公訴の提起に告訴権者の告訴が必要とされています。その理由は、事実が公になると被害者に不利益が生じるおそれのある犯罪、被害が比較的軽微な犯罪、親族間の問題のため介入に抑制的であるべき犯罪等に限られているからです。親告罪については、告訴がないにも関わらず起訴されたときは、公訴提起の手続きがその規定に違反したため無効となり、公訴が棄却されます。

親告罪のうち、犯人と被害者の間に一定の関係がある場合に限り親告罪となるものを相対的親告罪と言い、それ以外の親告罪を絶対的親告罪と言います。相対的親告罪の例としては、親族間の窃盗(刑法244条・親族相盗例)があります。

相対的親告罪の場合は、告訴は犯人を指定する必要があります。また、他の共犯者を告訴してもその効果は親族である共犯者には及びません。

絶対的親告罪の場合は、犯人の特定なくして告訴することができますが、このときは、犯罪事実を詳細に明示する必要があります。

親告罪の一例

事実が公になると被害者に不利益が生じるおそれのある犯罪

信書開封罪(刑法第133条) 正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者。
秘密漏示罪(刑法第134条) 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたとき。
2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも同様。
未成年者略取及び誘拐罪(刑法第224条) 未成年者を略取し、又は誘拐した者。
名誉毀損罪(刑法第230条) 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者。
侮辱罪(刑法第231条) 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者。

被害が比較的軽微な犯罪

過失傷害罪(刑法第209条) 過失により人を傷害した者。
私用文書等毀棄罪(刑法第259条) 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者。
器物損壊罪(刑法第261条) 他人の物を損壊し、又は傷害した者。
信書隠匿罪(刑法第263条) 他人の信書を隠匿した者。

親族間の問題のため介入に抑制的であるべき犯罪

窃盗罪(刑法第235条) 他人の財物を窃取した者(配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で犯した罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法第244条2項))。
不動産侵奪罪(刑法第235条の2) 他人の不動産を侵奪した者(配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で犯した罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法第244条2項))。
詐欺罪(刑法第246条) 人を欺いて財物を交付させた者(配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で犯した罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法第251条・244条2項準用))。
恐喝罪(刑法第249条) 人を恐喝して財物を交付させた者(配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で犯した罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法第251条・244条2項準用))。
横領罪(刑法第252条) 自己の占有する他人の物を横領した者(配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で犯した罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法第255条・244条2項準用))。

その他、ストーカー規制法違反の罪(ストーカー規制法第13条)、著作権等侵害(著作権法第119条、123条)、商業用レコード複製等(著作権法第121条の2、123条)、半導体集積回路配置利用権等侵害(半導体法第51条)等があります。

なお、平成29年7月13日の改正刑法により、強制わいせつ罪(刑法第176条)、強制性交等罪(旧強姦罪)(刑法第177条)、準強制わいせつ罪及び準強制性交等罪(旧準強姦罪)(刑法第178条)、営利目的等略取及び誘拐罪(刑法第225条)は非親告罪となりました。

令和5年7月13日の改正刑法により、「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」の2つの犯罪は統合され、新たに不同意わいせつ罪(刑法176条)として創設されました。また、「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」も同様に、不同意性交等罪(刑法177条)として統合されました。

告訴期間

公訴時効が完成するまで、いつでも告訴できます。公訴時効の完成は次のとおりです。なお、公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します。

人を死亡させた場合

人を死亡させていない場合

親告罪は、原則として犯人を知ったとき(犯罪行為終了後の日で少なくとも犯人の何人かを特定し得る程度に認識するに至った日)から6ヶ月以内に告訴します。

告訴の取り消し

親告罪においての取り消しは、公訴の提起(起訴状が裁判所に到達するまで)があるまでに限られます。一度告訴を取り消すと二度と同じ事件で告訴することはできませんので注意が必要です。

告訴状の記載事項

告訴状の様式及び記載については、何ら規定はありません。

犯人でない者を告訴すると「虚偽告訴罪」になりますので、十分な注意が必要です。

民事上のトラブル解決を促進するために告訴を利用することは避けなければなりません。